Jacob deGrom
「遊撃手として指名された少年は、いかにして寡黙な奪三振王になったのか——ジェイコブ・デグロムという投手の肖像」
デグロムはメジャーで最も支配的な投手の一人として知られる前、プロ入り時点では投手ですらなかった——2010年ドラフトで指名されたのは遊撃手としてだった。
度重なる故障からの復帰を目指すレンジャーズでの現在の姿は、かつてメッツで二年連続サイ・ヤング賞に輝いた投手が、どこまで本来の投球を取り戻せるかという、キャリア後半の物語そのものである。
彼をめぐる語りは球速や奪三振数、故障の多さに終始しがちだが、そもそも彼が投手としてのキャリアを、生まれ故郷の大学で遊撃手から転向する形で始めたという経緯は見落とされやすい。
デグロムが野球を学んだ大学、ステットソン大学は、彼の生まれ故郷デランド(フロリダ州)そのものにある。つまり彼にとって「地元」と「母校」は同じ地名であり、彼のプロとしての原点は、生まれた街から一歩も出ずに築かれた。
日本の野球文化では、生え抜き選手が生涯一球団でプレーすることに特別な意味と美徳が置かれる傾向がある。デグロムがメッツというフランチャイズの顔的存在から、自由契約でレンジャーズへ移籍したという事実は、アメリカでは単なるキャリアの一段階として受け止められるが、同じ移籍が日本の観客にはより重く、複雑な意味合いを帯びて映る可能性がある。
ジェイコブ・デグロムはフロリダ州デランド出身、190センチ超の右投げ左打ちの投手である。2010年ドラフトでは投手ではなく遊撃手として指名され、その後投手に転向。2014年にメッツでメジャーデビューし、新人王、そして2度のナ・リーグサイ・ヤング賞を経て、現在はテキサス・レンジャーズでプレーしている。
| 年度 | チーム | 登板 | 勝敗 | 防御率 | 投球回 | 奪三振 | WHIP |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 2026 | TEX | 18 | 7勝5敗 | 3.49 | 100.2 | 122 | 1.01 |
| 2025 | TEX | 30 | 12勝8敗 | 2.97 | 172.2 | 185 | 0.92 |
| 2024 | TEX | 3 | 0勝0敗 | 1.69 | 10.2 | 14 | 1.13 |
| 通算 | — | 266 | 103勝70敗 | 2.63 | 1640.1 | 1973 | 0.99 |
出典:MLB Stats API(レギュラーシーズン)
遊撃手から投手へ——デランドで始まった転身
ジェイコブ・デグロムは1988年6月19日、フロリダ州デランドに生まれた。同じ街にあるステットソン大学でプレーした彼は、当初は遊撃手としてプロ入りを目指していたと広く伝えられている。2010年のドラフトで指名されたのも投手としてではなく、内野手としてだった。そこから投手へと本格的に転向し、独特の投球フォームと制球力を磨き上げていった経緯は、彼のキャリアを語る上で欠かせない出発点である。
メッツでの台頭、そして頂点へ
2014年5月15日、デグロムはニューヨーク・メッツでメジャーデビューを果たした。その年のうちにナ・リーグ新人王に輝き、以後、球界を代表する先発投手の一人として認識されるようになる。とりわけ評価を決定づけたのが、ナ・リーグサイ・ヤング賞を2年連続で受賞した実績である。派手さよりも精度を重んじる投球スタイルは、メディアの前でも多くを語らない寡黙な人物像と重なり、静かな支配者というイメージを形作っていった。
アメリカのメジャーリーグにおける先発ローテーションでは、日本の「エース」のように精神的支柱として一人の投手が特別視される構造は必ずしも一般的ではない。その中でサイ・ヤング賞は、リーグ最優秀投手に与えられる最も権威ある個人タイトルであり、これを2年連続で獲得することは、単なる好成績以上に、その投手が同世代の投手陣の頂点に立ったことを意味する。
テキサスでの新章
その後、自由契約選手としてテキサス・レンジャーズへ移籍し、背番号48を背負って新たな章を歩んでいる。長年のメッツでの実績を背景に迎え入れられた移籍だったが、以降のキャリアは故障との闘いも伴うものとなっている。かつての圧倒的な支配力をどこまで取り戻せるかは、本人だけでなく球団の今後にとっても大きな意味を持つ問いである。
日本のプロ野球では、生え抜き選手が長く一球団に留まることに強い美徳が置かれる傾向がある。一方でメジャーリーグの自由契約制度は、選手が市場価値に応じて所属先を選ぶことを前提とした仕組みであり、看板選手であっても契約満了後に他球団へ移ることは珍しくない。デグロムがメッツからレンジャーズへ移った背景にも、この制度的な文化がある。
アメリカの野球界でも、ドラフト時に投手以外のポジションで指名された選手が後に本格派投手へ転向し、成功を収める例は決して多くない。デグロムのキャリアがしばしば「異色の経歴」として語られるのは、この転向の背景があるためである。
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